- 2026年10月6日
- 2026年10月8日
睡眠薬の種類と選び方|市販薬との違い・飲み始めの流れ

「寝つけない夜が続いていて、睡眠薬を使ったほうがいいのか迷っている」「ドラッグストアの睡眠改善薬ではだめなのだろうか」「病院で出される睡眠薬には、どんな種類があるのだろう」。診察室でも、睡眠薬についてこうしたご質問をいただくことがよくあります。
睡眠薬と聞くと、「強い薬」「やめられなくなる薬」というイメージをお持ちの方も少なくありません。しかし現在使われている睡眠薬には複数の種類があり、不眠のタイプや年齢、持病などに合わせて選ばれています。
この記事では、睡眠薬の種類ごとの違い、市販の睡眠改善薬との違い、そして初診から飲み始めるまでの流れを順番にご紹介します。「そもそも自分が不眠症なのかわからない」という方は、先に眠れない日が続く方へ|不眠症のサインをチェックもご覧ください。
睡眠薬を考える前に知っておきたい3つのこと
① 不眠症は「睡眠時間の短さ」ではなく「日中の不調」で判断されます
不眠症とは、寝つきの悪さや夜中の目覚めなどに加えて、日中のだるさ・眠気・集中力の低下といった支障が出ている状態を指します。睡眠時間が短くても日中に困りごとがなければ、不眠症とは言えません。くわしくは当院の不眠症のページでもご説明しています。
② 睡眠薬は「眠りを助ける手段のひとつ」です
不眠の治療は、睡眠習慣の見直しや不眠症に対する認知行動療法などの非薬物療法と、薬物療法を組み合わせて進めるのが基本です。睡眠薬だけに頼るのではなく、生活リズムや寝室環境を整えながら、必要な期間、適切な薬を使うという考え方になります。
③ 寝酒は睡眠薬の代わりになりません
お酒は一時的に寝つきを良くしても、夜の後半に眠りを浅くし、目が覚めやすくなることが知られています。毎日の寝酒は量が増えやすいという問題もあります。眠るためのお酒をやめられず、睡眠薬と併用してしまうことは、ふらつきや物忘れの原因にもなるため避けましょう。
睡眠薬は大きく4種類|分類と特徴
「睡眠薬」「睡眠導入剤」「安定剤」の違いを気にされる方も多いのですが、睡眠導入剤と睡眠薬に本質的な違いはありません。作用時間が短いタイプを便宜上「睡眠導入剤」と呼ぶことがあるだけです。一方、「安定剤」は抗不安薬のことで、不安や緊張をやわらげる目的の薬です。
現在、医療機関で主に使われている睡眠薬は、作用の仕組みから次の4つに大きく分けられます。
| 分類 | 代表的な薬(商品名) | 特徴 |
|---|---|---|
| オレキシン受容体拮抗薬 | スボレキサント(ベルソムラ) レンボレキサント(デエビゴ) ダリドレキサント(クービビック) | 脳の「覚醒を保つ物質(オレキシン)」の働きを抑えて、眠りに入りやすくするタイプ。2010年代以降に登場した比較的新しい薬で、使われる機会が増えています。 |
| メラトニン受容体作動薬 | ラメルテオン(ロゼレム) | 体内時計に働きかけて、自然な眠りのリズムを整えるタイプ。効き方は穏やかで、ふらつきなどの副作用が少ないとされています。 |
| 非ベンゾジアゼピン系 | ゾルピデム(マイスリー) エスゾピクロン(ルネスタ) ゾピクロン(アモバン) | 脳の活動を鎮めて眠りを促すタイプ。作用時間が短く、寝つきの悪さに使われることが多い薬です。 |
| ベンゾジアゼピン系 | トリアゾラム(ハルシオン) ブロチゾラム(レンドルミン) エチゾラム(デパス)など | 古くから使われてきたタイプ。しっかり効く一方で、ふらつき・翌日への持ち越し・長期使用時の耐性や依存に注意が必要です。 |
※薬の名前は代表的なものです。実際にどの薬を使うかは、診察のうえで医師が判断します。
種類ごとの違いをくわしく解説
オレキシン受容体拮抗薬|覚醒のスイッチを抑える新しいタイプ
私たちの脳には、起きている状態を保つ「オレキシン」という物質があります。この働きにブレーキをかけることで、自然な眠気をつくるのがオレキシン受容体拮抗薬です。国内では近年、ガイドラインなどで推奨される薬として処方の割合が増えています。薬ごとに、寝つきに向いているもの、夜間の目覚めに向いているものなど得意分野が異なります。
- 向いている方:寝つきの悪さ・夜中の目覚めの両方、またはどちらかでお困りの方
- 注意点:夢を見やすくなる(悪夢)、翌日の眠気が出ることがあります
- 注意点:一部の薬(飲み合わせに制限がある薬)があるため、服用中のお薬は必ず医師にお伝えください
メラトニン受容体作動薬|体内時計を整える穏やかなタイプ
睡眠ホルモンとして知られるメラトニンの働きを助け、睡眠と覚醒のリズムを整える薬です。ガイドラインでは、睡眠薬のなかでもっとも安全性が高く、高齢の方や持病のある方にも使いやすいとされています。一方で、効果はゆるやかで、安定するまでに数週間かかることがあります。
- 向いている方:夜型で寝つく時刻が遅い、生活リズムのずれが背景にある方、副作用が心配な方
- 注意点:「飲んですぐ効く」タイプではないため、効果は数週間続けて判断します
非ベンゾジアゼピン系|寝つきの悪さに使われる短時間型
ベンゾジアゼピン系と同じく脳の活動を鎮める薬ですが、筋肉の力が抜ける作用などが弱められています。作用時間が短く、「布団に入っても寝つけない」というタイプの不眠に使われることが多い薬です。ベンゾジアゼピン系に比べると、長期に使ったときに効き目が弱くなりにくいとされています。
- 向いている方:寝つきの悪さが中心の方
- 注意点:ふらつきや、飲んだ後の出来事を覚えていないこと(一過性の健忘)に注意が必要です
- 注意点:薬によっては処方できる日数に上限が定められています
ベンゾジアゼピン系|効果がしっかりしている反面、慎重な使用が必要
長年使われてきた薬で、作用時間によって「超短時間型」「短時間型」「中間型」「長時間型」に分けられます。寝つきの悪さには短い薬、夜中や早朝の目覚めにはやや長い薬と、不眠のタイプに合わせて使い分けます。国内では現在も処方されている割合が高い一方、世界的には使用を控える流れが続いています。
- 向いている方:他の薬で十分な効果が得られなかった方など、医師が必要と判断した場合
- 注意点:ふらつき・転倒・翌朝の眠気、長期使用時の耐性(効き目が弱くなること)や依存
- 注意点:高齢の方は副作用が出やすいため、とくに慎重に選びます
なお、睡眠薬を複数種類まとめて飲むと副作用のリスクが高まるため、原則として治療の初期は1種類から始めます。診療報酬上も、睡眠薬や抗不安薬を3種類以上同時に処方することには制限がかけられています。
不眠のタイプ別|薬を選ぶときの考え方
睡眠薬は、「どの薬が一番良いか」ではなく、「どの不眠のタイプに、どんな背景の方に合うか」で選びます。下の表は、あくまで考え方の目安です。実際には、診察での問診をもとに医師が総合的に判断します。
| 状況 | 選ぶときの考え方(目安) |
|---|---|
| 寝つきが悪い(入眠困難) | 作用時間の短い薬(非ベンゾジアゼピン系、短時間型の薬、オレキシン受容体拮抗薬など)が検討されます。 |
| 夜中や早朝に目が覚める(中途覚醒・早朝覚醒) | 作用時間がより長い薬や、オレキシン受容体拮抗薬が検討されることがあります。 |
| 寝つく時間帯が遅い・夜型 | メラトニン受容体作動薬が候補になります。 |
| うつ病・不安障害が背景にある | 背景の病気の治療を優先し、眠りを助ける作用のある抗うつ薬などを併用することもあります。 |
| 高齢の方・持病のある方 | 転倒やふらつきのリスクを考え、副作用の少ない薬を慎重に選びます。 |
不眠の背景に、うつ病や不安障害、睡眠時無呼吸症候群などが隠れていることもあります。この場合は、睡眠薬だけでなく原因となっている病気への治療も大切です。
市販の睡眠改善薬と処方薬の違い
ドラッグストアで買える「睡眠改善薬」は、病院で処方される睡眠薬とは成分も目的も異なります。市販の睡眠改善薬の多くは、ジフェンヒドラミン塩酸塩という抗ヒスタミン薬を主成分としています。もともとアレルギーの薬として使われてきた成分で、「眠くなる」という副作用を逆に利用した薬です。
| 市販の睡眠改善薬 | 医療機関で処方される睡眠薬 | |
|---|---|---|
| 入手方法 | ドラッグストアなどで購入(薬剤師・登録販売者への相談が必要) | 医師の診察のうえで処方 |
| 主な成分 | ジフェンヒドラミン塩酸塩(抗ヒスタミン薬) | オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、非ベンゾジアゼピン系、ベンゾジアゼピン系など |
| 目的 | 一時的な不眠(寝つきが悪い・眠りが浅い)の緩和 | 不眠症の治療 |
| 使えない方 | 15歳未満の方妊娠中・授乳中の方日常的に不眠の方不眠症の診断を受けた方 | 診察で、年齢・持病・妊娠の有無などを確認して判断 |
| 注意点 | 翌日の眠気、口の渇き、排尿困難など服用前後の飲酒は避ける服用後は車などの運転をしない他のかぜ薬・アレルギー薬との併用はしない | 薬ごとの副作用(ふらつき・翌朝の眠気など)医師の指示どおりの飲み方を守る |
市販薬を使ってよいのは「一時的な不眠」まで
市販の睡眠改善薬は、旅行や心配ごとで数日眠れないといった一時的な不眠に使うものです。添付文書にも、日常的に不眠の方や、不眠症の診断を受けた方は使用しないこと、連用しないこと、2〜3回服用しても症状がよくならない場合は服用を中止して相談することが記載されています。決められた量を超えて飲むと、かえって神経が高ぶって眠れなくなることもあります。
なお、サプリメントや漢方薬、メラトニンを含む製品については、不眠症に対する効果や長期の安全性が十分に確かめられていないものが多いとされています。「効いているかどうかわからないまま飲み続ける」ことは避け、不眠が続く場合は医療機関へご相談ください。
睡眠薬の適正な使い方は、厚生労働科学研究班と日本睡眠学会がまとめた睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(日本睡眠学会)にも示されています。
こんなときは受診のタイミングです
次のような状態があてはまる場合は、市販薬で様子を見続けず、早めに心療内科・精神科へご相談ください。
- 眠れない夜が週に3日以上、1か月以上続いている
- 市販の睡眠改善薬を2〜3回使っても効果がない、または頻繁に使わないと眠れない
- 日中の強い眠気・だるさ・集中力の低下で、仕事や家事に支障が出ている
- 気分の落ち込みや強い不安、イライラも続いている
- 睡眠への不安から、夜になるのがつらい
睡眠薬を飲み始めるまでの流れ
「受診したらすぐ強い薬を出されるのでは」と心配される方もいらっしゃいますが、実際には、まずお話を伺い、睡眠習慣の見直しも含めて治療方針を一緒に考えるところから始まります。
STEP1|WEB予約をして受診する
当院はWEB予約制です(お電話でのご予約は承っておりません)。初めての方は初診の方へのページもあわせてご覧ください。
STEP2|問診で眠れない状況を詳しくお伺いします
薬を選ぶ前に、次のような点を確認します。メモしてお持ちいただけると、診察がスムーズです。
- いつ頃から、どんなふうに眠れないか(寝つけない・途中で起きる・早く目覚める など)
- 就寝・起床の時刻、昼寝、カフェインやお酒の習慣
- 日中の状態(眠気・だるさ・気分の落ち込み・不安 など)
- 持病、服用中のお薬(市販薬・サプリメント含む)、アレルギー
- 妊娠・授乳の予定や可能性
- 車の運転や、早朝の仕事の有無
STEP3|治療方針を相談します
睡眠習慣の見直しを土台にしながら、必要と判断した場合に睡眠薬を使います。薬の種類は、不眠のタイプや体の状態に合わせて選び、はじめは必要最小限の量・原則1種類から始めます。「どんな薬か」「どんな副作用があるか」「いつまで続けるか」などの疑問や不安は、遠慮なくお尋ねください。
STEP4|飲み方のルールを確認します
睡眠薬は、飲み方を守ることで安全性が高まります。とくに次の点が大切です。
- 就寝の直前に飲み、飲んだらすぐ布団に入る(飲んだ後に起きていると、その間の行動を覚えていないことがあります)
- 夕食の直後は避ける(食後すぐだと効きにくくなる薬もあります)
- お酒と一緒に飲まない(ふらつき・物忘れ・普段と違う行動が出やすくなります)
- 飲んだ翌朝は、車の運転など危険を伴う作業を控える
- 夜中に目が覚めたときの追加の服用は、自己判断でしない(翌日に眠気が残りやすくなります)
- 効かないと感じても、自己判断で量を増やしたり、他の薬を足したりしない
STEP5|効果と副作用を確認しながら調整します
多くの睡眠薬は、飲んでから10〜30分ほどで眠気が出てきます。効果は飲み始めの1週間以内に実感される方が多く、1〜2週間続けるとより安定します。メラトニン受容体作動薬のように、数週間かけて効果をみる薬もあります。
翌朝の眠気、ふらつき、物忘れなどが気になる場合は、我慢せずにお伝えください。薬の種類や量、飲む時間を調整することで、改善できることがあります。
STEP6|定期的に通院し、今後の方針を相談します
睡眠薬は、無期限に飲み続ける薬ではありません。眠れるようになり、日中の調子も整ってきたら、薬の量や期間をどうしていくかを一緒に相談します。薬を減らしていく考え方や、やめるときの注意点については、心療内科・精神科の薬は一生飲み続けるの?よくある誤解と実際で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
睡眠薬の飲み始めに多いご質問
Q. 飲み始めると、やめられなくなりませんか?
短期間の使用で、依存が大きな問題になる可能性は低いとされています。依存のリスクは、高用量や長期間の服用で高まるため、医師の指示どおりに必要な期間、適切な量を使うことが大切です。心配なときは、自己判断で量を変えたり急にやめたりせず、診察でご相談ください。
Q. 毎日飲まなければいけませんか?
薬の種類や不眠の程度によって異なります。眠れない夜だけ使う方法が選択肢になる薬もありますが、すべての薬に当てはまるわけではありません。飲み方は医師の指示に従ってください。
Q. 妊娠中・授乳中や、高齢でも使えますか?
お使いになれる薬もありますが、薬の選び方に特別な配慮が必要です。妊娠・授乳の予定がある方、高齢の方、持病のある方は、診察のときに必ずお伝えください。睡眠薬を服用中に妊娠に気づいた場合も、自己判断で中断せず、早めにご相談ください。
眠れない夜を一人で抱え込まず、まずはご相談ください
睡眠薬には複数の種類があり、不眠のタイプや体の状態によって合う薬は異なります。市販薬で様子を見ているうちに不眠が長引いてしまう方も少なくありません。「薬を使うかどうかも含めて相談したい」という段階でも、どうぞお気軽にお越しください。
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