- 2026年10月9日
基準値内だから大丈夫? 採血結果からみえること

健康診断や採血の結果を見て、「基準値内だったから大丈夫」とホッと胸をなでおろした経験はありませんか。
もちろん、基準値は病気を見つけるための大切な目安です。ただ一方で、「基準値の中に入っている=栄養状態が十分に整っている」とは限らない、ということをご存知でしょうか。
越谷Kこころのクリニックの管理栄養士が、栄養相談の中で参考にしている「オーソモレキュラー栄養学」という考え方をご紹介しながら、採血結果からもう一歩踏み込んで見えてくることについてお話しします。
そもそも「基準値」とは何を表しているのか
一般的な健康診断で使われる基準値は、多くの場合「病気を見つけるための線引き」として設定されています。つまり、明らかな異常や病気がないかどうかを判断するための数値です。
そのため、基準値の範囲内に収まっていれば、大きな病気のサインはひとまず見当たらない、ということは分かります。これは安心材料として、とても大切な情報です。
ですが、「範囲の中のどのあたりに位置しているか」という視点は、健康診断ではあまり重視されません。たとえば「基準値内だけれど、下限に近い」という状態も、一般的には「異常なし」として扱われます。数値は同じ「基準値内」でも、体の中の状態は人によって違うことがあります。
「基準値内」でも見えてくることがある ― フェリチンの例
わかりやすい例が、貧血の検査です。健康診断では、ヘモグロビンの数値だけで貧血の有無を判断することが多くあります。しかし、体の中の「鉄の貯金」にあたる貯蔵鉄の量を反映するのは、「フェリチン」という項目です。
鉄が不足してくると、まず貯蔵鉄が減り、その後にヘモグロビンの数値が下がっていくと考えられています。そのため、ヘモグロビンはまだ基準値内でも、フェリチンが低く、貯蔵鉄が少なくなっている「隠れ貧血」と呼ばれる状態の方が実際にいらっしゃいます。特に、月経のある女性では注目されやすい項目です。
なお、フェリチンは炎症があるときなどに高めに出ることもあり、数値の解釈には他の検査項目や症状とあわせた総合的な判断が必要です。数値だけで自己判断せず、医師の診断とあわせて考えることが大切です。
オーソモレキュラー栄養学という考え方
オーソモレキュラー栄養学(分子整合栄養学とも呼ばれます)は、「基準値内かどうか」だけでなく、「体にとって十分な栄養状態かどうか」という視点から、血液検査の数値を見ていく考え方です。
先ほどの貧血の例のように、ヘモグロビンだけでなくフェリチンまで確認することで、体の中の鉄の状態をより詳しくうかがうことができます。
たんぱく質の状態をどう見るか
たんぱく質の状態を見るときも、総蛋白の数値だけでなく、AST・ALT・尿素窒素(BUN)といった複数の項目を組み合わせて、体の中でたんぱく質がしっかり使われているかどうかを推測していきます。1つの数値だけで判断するのではなく、項目同士の関係性を見ていくのが特徴です。
「異常があるか」から「足りているか」へ
つまりオーソモレキュラー栄養学は、「異常があるかどうか」ではなく、「体の材料である栄養素が十分に足りているかどうか」という、もう一段階踏み込んだ視点で採血結果を読み解く考え方だといえます。
なぜこの視点が大切なのか
栄養相談の中で、「野菜もしっかり食べているし、脂っこいものも控えているのに、なんとなく体調がすっきりしない」という声をよくお聞きします。
カロリーや食事量は足りていても、たんぱく質やビタミン、鉄・亜鉛といったミネラルが不足しているケースは、実はとても多くあります。こうした不足は、「異常なし」という健康診断の結果だけでは見つけにくいものです。
だからこそ、基準値内かどうかだけで安心してしまうのではなく、「その数値が、体にとって十分と言える位置にあるかどうか」まで見ていくことに意味があります。
なお、国が定めている「日本人の食事摂取基準」では、たんぱく質・各種ビタミン・鉄や亜鉛などのミネラルについて、健康の維持・増進のために望ましい摂取量の目安が示されています。詳しくは厚生労働省「日本人の食事摂取基準」のページもご参照ください。
こんな不調が続いていませんか
次のような状態が続いている場合、栄養面の見直しがヒントになることがあります。
- 食事は摂っているはずなのに、疲れやすい・だるさが抜けない
- 朝なかなか起きられない、日中に強い眠気がある
- 立ちくらみやめまいを感じることがある
- 気持ちが落ち込みやすい、集中力が続かない
- 健康診断では毎年「異常なし」と言われているが、不調は続いている
ただし、これらの症状は栄養面だけでなく、さまざまな原因で起こります。気分の落ち込みが続く場合には「うつ病」、寝つきや眠りの浅さが気になる場合には「不眠症」など、心や体の病気が背景にあることも少なくありません。
気分の落ち込みや意欲の低下が続く場合はうつ病のページ、眠れない状態が続く場合は不眠症のページもあわせてご覧ください。「栄養のせいかもしれない」と自己判断せず、まずは医師にご相談いただくことが大切です。
知っておいていただきたいこと
オーソモレキュラー栄養学を取り入れるにあたって、次の点も大切にしています。
- 病気の診断や治療に代わるものではありません。気になる症状や数値は、医師による診断・治療とあわせて考えます。
- 採血データは「体の栄養状態を見える化するための一つの視点」です。数値だけで足りない・多いと決めつけることはできません。
- サプリメントなどを自己判断でたくさん摂ることはおすすめしません。特に鉄は、摂り過ぎによる影響もあるため、不足が疑われる場合も、まず医師・専門家にご相談ください。
- お薬を服用されている方は、食事や栄養の変更について、事前に主治医へご相談ください。
この考え方には、すべてが大規模な研究で確立されているわけではない部分もあります。だからこそ、一般的な医療と対立させるのではなく、医師の診療を土台にしたうえで、食事を見直すための補助的な視点として活用することを大切にしています。
栄養相談での活用の仕方
当院で栄養相談を行う際も、可能な範囲で採血データを参考にしながら、今どんな栄養素が不足しやすい状態にあるかを一緒に確認していきます。
そのうえで、生活習慣や食事内容のヒアリングを行い、お困りの症状と照らし合わせながら、無理なく続けられる食事の工夫をご提案しています。「あれもこれも」ではなく、その方の生活に合わせて、できることから一歩ずつ取り組んでいきます。
人の身体は、食べ物からできています。食事を見直すことは、体調を整えるための大切な土台のひとつです。「食事では変わらない」と諦めず、専門家と一緒に、ご自身の食生活を見直してみませんか。
まとめ
基準値内という結果は、大きな病気のサインがないことを教えてくれる、大切な情報です。ただ、それだけで体の栄養状態のすべてが分かるわけではありません。
数値が「基準値の中に入っているかどうか」だけでなく、「どのあたりに位置しているか」まで目を向けてみる。それが、なんとなく続く不調に気づく、最初の一歩になるかもしれません。
心や体の不調でお困りの際は、一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。心の健康に関する公的な情報は厚生労働省「こころの病気サポート」でもご覧いただけます。
越谷Kこころのクリニックのご案内
越谷Kこころのクリニックは、精神科・心療内科のクリニックです。「眠れない」「気分が落ち込む」「不安が強い」「なんとなく不調が続く」など、心や体のお悩みについて、丁寧にお話をうかがいます。
- 所在地:〒343-0845 埼玉県越谷市南越谷4丁目11-5 メディカルプライム新越谷 5F
- アクセス:東武スカイツリーライン「新越谷」駅より徒歩1分/JR武蔵野線「南越谷」駅より徒歩2分
初めて受診される方は、初診の方へのページをご確認のうえ、WEB予約からお申し込みください。「どの診療科に相談すればよいか分からない」という方も、まずはお気軽にご相談ください。