- 2026年9月25日
- 2026年10月9日
食事バランスの「正解」とは? 10品目で振り返るDVS(食品多様性スコア)とこころの健康

「バランスの良い食事を摂りましょう」
健康や栄養の話になると、必ずと言っていいほど出てくる言葉です。
でも、いざ「バランスが良い食事とは何ですか」と聞かれると、意外と答えに詰まってしまう方が多いのではないでしょうか。カロリー計算をすればいいのか、品目数を増やせばいいのか、それとも栄養素の比率を細かく考えるべきなのか……考えれば考えるほど、正解が分からなくなってしまいますよね。
今回は、当院の栄養相談でお伝えしている「DVS(食品多様性スコア)」という指標をご紹介しながら、食事バランスを整えることの大切さ、そして食事とこころの健康とのつながりについてお話ししたいと思います。
「バランスの良い食事」は、複雑に考えなくて大丈夫です
栄養の専門的な話になると、たんぱく質は体重1kgあたり何g、脂質はエネルギーの何%、といった細かい計算が登場しがちです。
もちろんそうした知識も大切ですが、日々の生活のなかでそこまで厳密に計算し続けるのは、正直かなり大変です。とくにお仕事や家事で忙しい方、体調が優れない時期にある方にとっては、「続かない方法」になってしまいがちです。
そこで役立つのが、もっとシンプルに「どれだけ多様な食品を摂れているか」に着目する考え方です。特定の栄養素を細かく計算しなくても、食べる食品の種類を増やすこと自体が、結果的に栄養バランスを整えることにつながります。
DVS(食品多様性スコア)とは
DVS(Dietary Variety Score)は、主菜・副菜を構成する10の食品群について、それぞれをどのくらいの頻度で食べているかをもとに、食品摂取の多様性を評価する指標です。もともとは高齢者の栄養状態を簡便に評価するために開発されたもので、現在では栄養疫学の研究や保健指導の現場で広く使われています。
対象となる10の食品群
当院の栄養相談では、次の10の食品群で評価しています。
- たんぱく源となる5品目:肉/魚介/卵/乳製品/大豆製品
- ビタミン・ミネラル源となる5品目:いも/果物/野菜/きのこ/海藻
なお、DVSは研究によって構成する食品群が少しずつ異なります(原法では油脂類が含まれます)。当院では、日々の食卓で意識しやすいことを優先して、上記の10品目で振り返っていただいています。
採点の方法はとてもシンプルです
それぞれの食品群について、「ほぼ毎日食べている」ものには1点、そうでないものには0点をつけ、合計10点満点で評価します。7点以上が理想とされています。
記録も計量も必要ありません。この1週間の食卓を思い出して、「魚は食べたかな」「海藻はどうだろう」と指を折って数えるだけです。所要時間は1分もかかりません。
なぜ「多様性」が大切なのでしょうか
DVSが優れているのは、細かい栄養価計算をしなくても、日々の食卓を振り返るだけでバランスの傾向がつかめる点です。
先ほどご紹介したとおり、10品目のうち肉・魚介・卵・乳製品・大豆製品の5品目はたんぱく源、いも・果物・野菜・きのこ・海藻の5品目はビタミンやミネラルの供給源として構成されています。つまりこの10品目をまんべんなく食べられているということは、自然とたんぱく質と微量栄養素の両方をカバーできている、ということになります。
実際に、食品摂取の多様性が高い人ほど、たんぱく質や脂質の摂取比率が高く、微量栄養素の摂取量も多い一方で、炭水化物に偏りすぎない食生活を送っている傾向が報告されています(健康長寿ネット「フレイル予防のための食事と栄養」)。同じ量・同じエネルギーを食べていても、おかずの品数が増えるほど「栄養素密度の高い食事」になっていく、というイメージです。
バランスよく食べることで、からだの中で起きること
10品目をしっかり食べるということは、単に栄養素の数値を満たすということだけではありません。
胃腸・肝臓・腎臓など、体の中で働く臓器は、それぞれ異なる栄養素を材料にして働いています。特定の食品ばかりに偏ってしまうと、ある臓器は材料が足りず、別の臓器では特定の負担ばかりがかかる、という状態になりがちです。
10品目を満遍なく摂ることで、体の中の臓器がそれぞれ必要な材料を受け取り、無理なく本来の働きをできる状態をつくることができます。バランスの良い食事とは、各臓器がきちんと働ける環境を整えてあげることでもあるのです。そうすることにより、無理なく自然と身体が変わる仕組みへとつながっていきます。
食事とこころの健康には、つながりがあります
心療内科・精神科である当院がなぜ栄養の話をするのか、疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。実は近年、食事のパターンとこころの状態との関連を示す研究が、国内外で数多く報告されています。
日本の働く人を対象にした大規模調査
2025年に国立健康危機管理研究機構などの研究グループが発表した職域多施設研究(J-ECOHスタディ)では、5つの企業に勤務する約1万2,500人を対象に、日本食のパターンと抑うつ症状との関連が調べられました。白米、味噌汁、大豆製品、調理した野菜、きのこ類、海藻、魚、緑茶などをよく食べている「伝統的日本食パターン」のスコアが高い人ほど、抑うつ症状が少ない傾向が示されています(国立健康危機管理研究機構 プレスリリース)。果物・生野菜・乳製品を加えた「改良型日本食パターン」でも、同様の傾向が確認されました。
興味深いのは、ここで挙げられている食品の多くが、DVSの10品目と重なっているという点です。特別な食材をそろえる必要はなく、和食を中心にいろいろなものを食べるという、ごく当たり前の食卓がベースになっています。
果物とうつ病に関する国内の研究
また、国立がん研究センターと国立精神・神経医療研究センターなどの研究グループが長野県の住民を対象に行った調査では、果物の摂取量が多いほど、うつ病を発症するリスクが低いという関連が報告されています(国立がん研究センター プレスリリース)。果物は10品目のなかでも不足しやすい食品群のひとつですので、意識して取り入れていただきたいところです。
栄養素の面から見ると
こうした関連の背景として、研究者は次のような仕組みを指摘しています。
- 海藻・大豆製品・野菜に多く含まれる葉酸は、セロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質の合成を助けます
- 魚に多く含まれるn-3系脂肪酸(EPA・DHA)は、脳の神経細胞の働きや炎症の調整に関わります
- 鉄・亜鉛・マグネシウムなどのミネラル、ビタミンB群やビタミンDも、神経伝達物質をつくる過程に関わっています
- 発酵食品などによって腸内環境が整うことも、こころの状態と関連すると考えられています
たんぱく源5品目とビタミン・ミネラル源5品目をまんべんなく摂ることは、これらの栄養素をひととおりカバーすることにもつながります。DVSを意識することが、結果的にこころの健康を支える食事にも近づいていく、というわけです。
ただし、食事だけで解決するものではありません
ここで大切なお断りをひとつ。これらの研究の多くは、ある時点での食事と症状の関連を調べたもので、「この食事をすればうつ病が治る」ということを示したものではありません。食事はあくまで、治療を支える土台のひとつです。気分の落ち込みが続いている、眠れない日が続いているといった場合は、まず医療機関にご相談ください。当院のうつ病のページや、不眠症のページもあわせてご覧いただけます。
こころが疲れているときほど、食事は乱れやすくなります
栄養相談をしていると、「わかってはいるけれど、できない」という声をよく伺います。これはとても自然なことです。
気分が落ち込んでいるとき、強いストレスを抱えているときには、食欲そのものが落ちたり、逆に特定のものばかり食べたくなったりします。買い物に行く、包丁を持つ、洗い物をする——こうした一連の動作が、どれも重く感じられることもあります。結果として、パンやおにぎり、麺類など、手軽に食べられる炭水化物中心の食事に偏りやすくなります。
すると、たんぱく質やビタミン・ミネラルが不足し、だるさや集中力の低下が起こりやすくなり、さらに動くのがつらくなる……という悪循環に入ってしまうことがあります。お仕事のストレスから体調を崩されている方は、適応障害のページもご参考になさってください。
つらいときは「足し算」で考えてみてください
このようなときに、完璧な献立を目指す必要はまったくありません。今できていることに、ひとつ足すだけで十分です。
- インスタントの味噌汁に、乾燥わかめと豆腐を入れる(海藻・大豆製品が2品目追加)
- コンビニのおにぎりに、ゆで卵やサラダチキンを1つ足す(卵・肉が追加)
- 納豆やヨーグルト、カットフルーツなど、調理のいらないものを常備しておく
- 冷凍のきのこミックスやカット野菜を使う(切る手間をなくす)
「手抜き」ではなく、体調に合わせた賢い工夫です。調子が戻ってきてから、少しずつ整えていけば大丈夫です。
当院の栄養相談での活用の仕方
当院で行っている栄養相談でも、このDVSの考え方を取り入れています。
「何を減らすべきか」ではなく「何を増やせそうか」という視点で食卓を振り返っていただくと、多くの方が無理なく取り組めます。たとえば、普段の食事に海藻や大豆製品がまったく登場していないことに気づいたら、味噌汁に豆腐やわかめを加えてみる。それだけでも立派な一歩です。
10品目のうち何品目を毎日の食卓でカバーできているかをチェックするだけなので、面倒な計算は必要ありません。
量の目安は「片手のひら」
ボリュームは、自分の片手のひらに乗る程度の量が目安です。手の大きさは体格とおおよそ比例しますので、これにより自然と、ご自身の背丈にあった適量に近づきます。
カロリー計算も不要なので、外食やコンビニ、お惣菜の食事でも取り入れやすく、日々の生活のなかで「続けやすい」栄養チェックの方法として、多くの方におすすめしています。
もう一歩踏み込みたい方へ:血液検査による栄養解析レポート(近日開始予定)
DVSは、ご自身の食生活の傾向を手軽につかむための入口です。一方で、「気をつけているつもりなのに調子が上がらない」「何が足りていないのかを具体的に知りたい」という方もいらっしゃいます。
当院では現在、そうした方に向けて、血液検査のデータをもとにした栄養解析レポート(自費診療)の準備を進めています。
- 通常の健康診断では「基準値内」とされる項目も含めて、栄養学的な視点から詳しく読み解きます
- たんぱく質の充足度、鉄やビタミンB群の状態、血糖の変動など、複数の項目を組み合わせて評価します
- 結果はレポートとしてお渡しし、管理栄養士が内容をご説明しながら、日々の食事にどう落とし込むかを一緒に考えます
「なんとなく体に良さそうなことをする」のではなく、ご自身のデータを見ながら優先順位をつけて取り組めるのが、この方法の利点です。なお、栄養解析はあくまで食生活を見直すための参考情報であり、病気の診断や治療に代わるものではありません。現在治療中の方は、必ず主治医とご相談のうえでご検討ください。
準備が整い次第、当ブログおよび院内にてあらためてご案内いたします。料金や所要時間、検査の流れなどの詳細も、そのタイミングでお知らせいたします。
まとめ
食事バランスの「正解」は、実はそれほど難しく考える必要はありません。10の食品群をまんべんなく食卓に取り入れることを意識するだけで、自然とバランスの良い食生活に近づいていきます。
そして、その積み重ねは、からだだけでなくこころの健康を支える土台にもなっていきます。
完璧を目指す必要はありません。まずは今の食卓に、どの食品群が足りていないかを振り返るところから始めてみませんか。