- 2026年9月15日
傷病手当金と障害年金は同時にもらえる?併給調整のルールを解説

「そろそろ傷病手当金の支給期間が終わりに近づいてきたけれど、まだ働ける状態ではない」「このタイミングで障害年金の申請も考えた方がいいのだろうか」
休職が長引く中で、こうした不安を抱く方は少なくありません。
傷病手当金と障害年金は、どちらも病気やケガで働けないときの生活を支える公的な制度という共通点がありますが、実は同一の傷病について両方を満額受け取ることはできません。これは「併給調整」と呼ばれるルールがあるためです。
この記事では、傷病手当金と障害年金を同時に受給できるのか、できない場合はどのような調整が行われるのかを、具体例を交えて整理します。
まずは制度のおさらい:傷病手当金と障害年金の違い
それぞれの制度の詳しい支給条件や金額の目安は、当院の別記事「傷病手当金はいくら?申請方法と支給期間をわかりやすく解説」および「精神障害者の障害年金とは?対象条件と受給までの流れ」で解説していますので、あわせてご覧ください。ここでは要点のみ簡単におさらいします。
- 傷病手当金:健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に加入している方が、業務外の病気やケガで働けなくなったときに、休業4日目から給与のおよそ3分の2が支給される制度。支給期間は通算して最長1年6か月。
- 障害年金:公的年金(国民年金・厚生年金)の加入者が、病気やケガによって一定の障害状態になったときに受け取れる制度。原則として初診日から1年6か月後(障害認定日)以降に請求でき、症状が続く限り長期的に受給できる。
両者に共通するのは、収入が得られない・得にくい状態を経済的に支えるという目的です。うつ病や躁うつ病(双極性障害)などで休職が長期化し、傷病手当金の支給期間(1年6か月)が終わりに近づいてくると、その後の生活を支える手段として障害年金が選択肢に入ってきます。このタイミングが近いからこそ、「両方もらえるのか」「もらえるとしたらいくらになるのか」が気になる方が多いのです。
併給調整とは?なぜ両方は受け取れないのか
公的な給付制度には、同じ目的(収入保障)の給付を重複して満額支給しないという「併給調整」の考え方があります。傷病手当金と障害年金も、この併給調整の対象になる組み合わせのひとつです。
ただし、「絶対に両方はもらえない」というわけではありません。調整の対象になるのは、①原因となる傷病が同一(または関連)であり、②その傷病について障害厚生年金を受給できる場合、という条件を満たすケースに限られます。逆に言えば、この条件に当てはまらない場合は、両方を満額受け取れる可能性があります。次の章から、具体的なルールを見ていきましょう。
同一傷病の場合の基本ルール:障害厚生年金が優先
健康保険法の定めにより、次のようなルールになっています。
- 同一(関連)の傷病について、傷病手当金と障害厚生年金の両方を受給できる場合、傷病手当金は支給されません。障害厚生年金が優先されます。
- ただし、障害厚生年金の額(同一の支給事由で障害基礎年金もあわせて受給できる場合はその合算額)を360で割った1日あたりの金額が、傷病手当金の日額よりも低い場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。
つまり、障害年金を受け取れるようになったことで、それまでより手取りの総額が減ってしまうことがないよう、差額を埋める仕組みになっています。詳しい根拠は、全国健康保険協会(協会けんぽ)のよくあるご質問ページでも確認できます。
協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」よくあるご質問
【具体例】差額支給の計算をシミュレーション
実際にどの程度の調整が行われるのか、簡単な例で確認してみましょう。
例)傷病手当金の日額が8,000円、障害厚生年金と障害基礎年金の年間合計額が180万円の場合
- 年金額を日額換算:180万円 ÷ 360 = 5,000円
- 傷病手当金の日額(8,000円)の方が年金の日額換算額(5,000円)より高いため、差額が支給される
- 支給される傷病手当金:8,000円 − 5,000円 = 3,000円
このように、障害年金の日額換算額が傷病手当金より低い場合は、その差額分だけ傷病手当金が上乗せされる形になります。逆に、障害年金の日額換算額の方が高い場合は、傷病手当金は支給されません(障害年金のみを受け取る形になります)。
正確な金額は、加入している年金額や標準報酬月額によって変わりますので、実際に請求する前に年金事務所や協会けんぽ、勤務先の担当部署にご確認ください。
例外①:障害基礎年金のみの場合は併給調整の対象外
併給調整の対象になるのは「障害厚生年金」部分に限られます。そのため、次のようなケースでは、傷病手当金と障害年金を併給調整なしで、両方満額受け取れます。
- 初診日の時点で国民年金のみに加入していた方(自営業者、学生、専業主婦・主夫など)で、障害基礎年金のみを受給する場合
- 現在は会社員として健康保険・厚生年金に加入していても、障害年金の原因となった傷病の初診日が国民年金加入中だったため、障害基礎年金のみが支給される場合
「障害年金は会社員には関係ない」と思われがちですが、初診日の時点でどの年金制度に加入していたかによって、受け取れる年金の種類が変わる点には注意が必要です。ご自身の初診日がいつで、どの制度に加入していたか分からない場合は、年金事務所での確認をおすすめします。
例外②:原因となる傷病が異なる場合は調整なし
もうひとつの例外は、傷病手当金の原因となった病気・ケガと、障害年金の原因となった傷病がまったく別のものである場合です。この場合は併給調整の対象外となり、両方を満額受け取ることができます。
例えば、うつ病で休職して傷病手当金を受給している方が、別途、以前からの身体的な持病を原因に障害年金を受給しているようなケースでは、両方とも減額されることなく受け取れます。ただし、精神疾患が長期化する中で、身体症状と精神症状の関連性が争点になることもあるため、判断に迷う場合は年金事務所や社会保険労務士に確認することをおすすめします。
注意点:傷病手当金の受給後に障害年金がさかのぼって決定した場合
もうひとつ注意しておきたいのが、支給決定のタイミングのずれによる返還リスクです。
障害年金の請求から支給決定までは、書類の準備期間を含めて数か月かかることが一般的です。そのため、傷病手当金を受け取りながら障害年金を請求し、その後、障害年金の支給が決定したというケースも珍しくありません。
このとき、障害年金の支給開始日が、すでに傷病手当金を受け取っていた期間にさかのぼる場合は、その重複する期間分の傷病手当金を返還する必要があります。「知らないうちに二重取りになっていた」という事態を避けるためにも、障害年金を請求する時点で、協会けんぽや健康保険組合に一度相談しておくと安心です。
当院でのサポートと申請の進め方
越谷Kこころのクリニックでは、休職中の患者さまに対して、診断書の即日発行や、傷病手当金の申請書類(療養担当者記入欄)の記載サポートを行っています。
一方で、障害年金用の診断書の作成には対応しておりません。障害年金の申請を検討される場合は、まず年金事務所や社会保険労務士にご相談いただき、対応可能な医療機関をご確認ください。当院では、自立支援医療制度など、通院にともなう経済的な負担を軽減する制度についてのご案内も行っておりますので、あわせてお気軽にご相談ください。
うつ病や適応障害などで休職が長引き、今後の生活費に不安を感じている方は、一人で抱え込まず、まずは主治医や年金事務所に相談しながら、ご自身に合った制度を組み合わせて活用していきましょう。
まとめ:一人で抱え込まず、まずはご相談ください
傷病手当金と障害年金は、同一の傷病であれば原則として障害厚生年金が優先され、傷病手当金は差額のみの支給となります。ただし、障害基礎年金のみの場合や、原因となる傷病が異なる場合は併給調整の対象外となり、両方を満額受け取れる可能性があります。
制度は複雑で、ご自身の加入状況や初診日によって適用されるルールが変わります。「自分の場合はどうなるのか」を正確に知りたい方は、年金事務所や社会保険労務士への相談をおすすめします。
越谷Kこころのクリニックでは、休職や傷病手当金に関するご相談、診断書の即日発行に対応しております。「そろそろ次の制度も検討したほうがいいかもしれない」と感じたら、まずはお気軽にご相談ください。